長福寺について

開山1200年 源頼朝伝説と波の伊八の寺

当寺は大同2 年(807) 宗祖伝教大師自ら建立されたと伝えられる古刹です。末寺に伝来した平安期の古仏等、当寺の創建が古代に遡ることは明らかですが、度重なる罹災により古代・中世の寺歴は詳らかではありません。

一方、石橋山の戦いの後房総に逃れた源頼朝が平家追討の書状を当寺でしたため、その時当寺の差し出した硯が素晴らしかったので「硯山」の山号を頂戴したとも伝えられます。

また、布施城主上総介広常の攻略後、源頼朝が当寺に立ち寄り本堂前の槙の大木に筆を掛けたとする伝説「筆掛の槙」もあり、これが頼朝の名馬「磨墨」の伝説にも結びついています。

当寺中興の祖とされる海吽阿闍梨は上州世楽田長楽寺の法系に連なり、蓮華流の房総における拠点として発展したものと思われます。

江戸期の当寺は多数の末寺を持ち、いすみ地方の中本寺としての地位を保ちながら、地区の菩提寺として多くの檀信徒を教化した様子が伺えます。


本尊 阿弥陀如来

造像は室町時代と伝わる座像の仏様です。元は、金色に輝いていたと思われますが、お顔やお体に黒い部分が見られます。江戸時代に火災にあっているので、あるいは火傷を負われたのかも知れません。光背は、江戸時代の物といわれ、後に取り付けられたものと伝わっています。また、脇侍の観音菩薩、勢至菩薩は、膝を軽く曲げた姿勢で、動きのあるお姿です。



薬師如来

千葉県指定重要文化財「薬師如来座像」
関東薬師霊場89番札所/上総薬師霊場23
番札所

像高101cm、檜の一木割り矧ぎ造りで、ほぼ等身の如来像です。膝裏には建長2年(1250年)の修理銘があります。本来は当寺の隠居寺である釈迦谷寺のご本尊として祀られていました。
厚みのある体躯、平坦な頭頂は古様で、造像は11世紀と思われます。脇侍である不動明王、毘沙門天立像も12世紀の制作とみられ、中尊共々上総の平安仏らしいおおらかさと力強さを具えています。



筆掛けの槙と頼朝伝説

千葉県指定天然記念物「筆掛けの槙一樹」樹高12m
目通幹囲4.8m
推定樹齢1350年

平家により鎌倉に追われた源頼朝は、平家追討の援軍を求めて房総にやって来た折、当寺に立ち寄ったと言われています。時の住職との話の中で、未だ山号の無いことを知った頼朝は「山号を授けるので書くものを持て」とおっしゃいました。住職の差し出した硯のあまりの見事さに「硯山」とすることになりました。そのとき以来この寺は「硯山無量壽院長福寺」(すずりさんむりょうじゅいんちょうふくじ)が正式名称になりました。

また、書状を認めていた折、近くの山で馬のいななきが聞こえ、平家の追手かも知れないと考えた頼朝は、手にしていた筆を境内の槙の枝に掛け(これで、筆掛けの槙といわれるようになりました)見てくるように家来に命令。しかし家来の連れて来た馬は、全身真っ黒な立派な馬でした。すっかり気に入った頼朝はその馬に「磨墨」という名を付け、可愛がったといいます。都内某寺に「磨墨の墓」があり、墓誌に「布施の郡より得た馬」と書かれているそうです。

仁王門をくぐると左脇に「筆掛けの槙」の雄大な姿を見ることができます。



波の伊八

いすみ市に「波の伊八」を見に来たら是非当寺を訪ねて下さい。「関東に行ったら波を彫るな」とまで言わせた「初代武志伊八郎信由」(1751~1824)の原点の彫り物が本堂欄間を飾っています。1789年の制作で、中央に「波に龍」、左右に「雲に麒麟」を配した三面です。

海面に姿を現し、前足で宝珠を掴み昇天の機を窺う龍の尾は板面を大きく飛び出し、師匠から独立した伊八の心意気そのもののように見えます。右の麒麟は前を、左の麒麟は後ろを振り返り、どちらも龍の昇天を心待ちにしている様な力漲る作品です。また、色彩も明瞭な美しい彫刻です。

須祢壇の彫り物は「波に蓑亀」。この作品になると、伊八独特の「波頭」が現れて来ます。制作年代は明らかではありませんが、平行波と同じ板面にあるのは面白いものです。また、蓑亀(たぶん雄亀の方)は、耳のある「神亀」として彫られています。

いすみ郷土資料館の「神輿」、荻原の行元寺「波裏の図」岬の飯縄寺「天狗と牛若丸」も見ごたえのある作品です。

 



硯堂「無量壽庵」

寺宝 端渓硯「銘 無量壽」を安置する為に、2007年、開山1200年を記念して建立されたお堂です。
正面には、中国渡来の端渓硯一面が飾られています。この硯は、幅約95cm長さ約130cm厚さ約13cm重さ800kg~1tで、周囲は松竹梅と無数の鳥の透かし彫りがあります。
端渓硯は水を好む石として知られ、濡れると石本来の青味を帯びた美しい赤紫色になる為、硯の周りに水を掛ける仕掛けを作り、色の変化が楽しめるようになっています。

硯右には、篆刻による「般若心経」一巻が飾られています。これは、篆刻家 内藤富卿先生監修で制作された物で、朱・白取り混ぜて押された印影は、明るく美しく、見るものを楽しませてくれます。

 



今関脩竹書

書家 今関脩竹先生(1909~1989)は、房総に生まれ、日展評議員、同審査員、読売書法会創立総務、同審査員等を務めた他、朝日20人展のメンバーでもありました。

当寺ではご縁を頂き、6曲屏風、2曲屏風等、多くの作品を収蔵しております。本堂内には6曲屏風等が飾られていて、参拝者の目を楽しませています。

 



足さすりの仁王様

薬師様同様、釈迦谷寺にあった仁王様です。
衆生の民の足の痛みを吸い取ってくれる仁王様として親しまれています。柵の間より手を差し入れ、直接痛い所をさすると痛みが薄れるといわれています。